読み応えのある小説を探している人はいませんか?
ページをめくる手が止まらない、疾走感のある作品を求めている人もいるでしょう。
そんな読書に飢えている人におすすめなのがっ!
伊坂幸太郎さんの『ゴールデンスランバー』
首相暗殺の濡れ衣をかけられた主人公の逃走劇。
目に見えない巨大な陰謀に巻き込まれていく恐怖は、ただただ読者を震えさせる。
堺雅人さんをメインキャストに迎え映画化もされた、超ド級のエンターテインメント巨編!
そんな一冊を紹介します。
基本情報
タイトル:ゴールデンスランバー
著者:伊坂幸太郎
出版社:新潮社/新潮文庫
発行年:2007年/文庫版:2010年
ジャンル:ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
あらすじ
仙台で開かれた凱旋パレードのさなか、ラジコンヘリを使った爆弾で首相が暗殺される。
その直後、主人公・青柳雅春は首相暗殺犯として仕立て上げられてしまう。
かつてアイドルを救ったことで世間に名が知られていた彼は、メディアの格好の餌食となり、圧倒的な権力と世論に追われていく。
状況がつかめないまま巨大な陰謀に巻き込まれていく青柳は、逃走を重ねるが徐々に追いつめられていく。
信じて助けてくれる仲間もいれば、信じられない裏切りもある。逃げ場を失いながらも必死に走り続ける青柳。
はたして逃げきることができるのか。そして事件の真実にたどり着けるのか。
手に汗握るハードボイルドな逃走劇が、今はじまる──。
この小説の、ここが面白い!
登場人物すべてが魅力的
本作には多数のキャラクターが登場します。
しかも、その誰もが超個性的。
そのすべてを書くのは情報量が多すぎるため、主要人物の数人を紹介していきます。
青柳雅春:本作の主人公。
数年前に当時のトップアイドルを暴漢から助け出したことで、一躍時の人となる。
首相暗殺の濡れ衣をきせられ、逃亡の身となる。
ただの良い人で、割った板チョコの大きい方を彼女に渡すくらいには優しい男です。
一躍時の人になったという以外は、どこにでもいるような一般人でもある。
この「一般人」というところが、本作をいっそう怖くしています。
一般人が首相暗殺の濡れ衣が着せられるわけですからね。
青柳の人柄も相まって、どこまでも素直に感情移入できる人物です。
樋口晴子:青柳雅春の元恋人
今は別の男性と結婚して、七美という四歳の娘がいる。
青柳雅春の無実を信じ行動する。
元恋人のためにここまで頑張れるか!と感心するほどに頑張ります。
読者は男女問わず、間違いなく彼女を好きになります。
類まれな情報収集能力を生かして、物理的にも精神的にも逃亡する青柳を助ける姿は、本作の「影の主役」だと言えます。
樋口と青柳の過去の話は、重厚なストーリーの中のオアシスになっています。
森田森吾:青柳雅春の学生時代の友人
現在は結婚しており子供もいるが、妻がパチンコで多額の借金を抱えている。
本作では、久し振りに再開した青柳に巨大な陰謀に巻き込まれることを伝えるが……。
本人曰く「森の声が聞こえる」らしく、おかげでちょっと先のことが分かってしまう、らしい。
これだけで、彼がどんなキャラクターか見えてくるような気がします。
他にも多数のキャラクターが登場します。
青柳雅春が学生時代に所属していたサークルの後輩である小野一夫や、青柳雅春が勤めていた宅配会社の従業員である岩崎英二郎。
花火工場「轟煙火」の社長の轟(従業員からは親しみを込めてロッキーと呼ばれている)や、仙台病院センターに入院中の還暦を過ぎた患者の保土ヶ谷康志。
他にもまだまだいますが、私が本作のMVPだと推すのが青柳雅春の父です。
登場シーンこそ少ないですが、抜群の存在感!
息子を想う父の姿は、目頭を熱くします。
登場するキャラクターすべてに個性があって、一癖も二癖もあります。
そのため、読者それぞれに推しができることでしょう。
濃すぎる登場人物たちが、本作の魅力のひとつです。

どの登場人物も素敵すぎて悶えます!
重みのあるストーリー
本作の魅力は、ただの逃走劇では終わらないところにあります。
首相暗殺の濡れ衣を着せられた青柳の逃走劇だけでもスリル満点で、見ごたえあり。
逃げても逃げても、その先に待ち受ける困難。それをギリギリでかわしていく姿は、手に汗握るほどスリリング!
それだけでなく、そこに人間ドラマが折り重なることで、さらに物語に深みが出ています。
友情、親子、恋愛、信用、裏切り。さらには政治的思想や陰謀まで盛りだくさん。
「逃走劇」という大きな軸を中心に、さまざまな人間模様が練り込まれた本作は、ただ重たいだけのストーリーではありません。
読み手に考えさせる“重み”がありながら、しっかりと読み応えのある作品です。

最初から最後まで、濃厚すぎる読書体験ができます!
作品に浮力を与える伊坂節
とても重い内容の物語なのに軽く読める。
これこそが本書最大の魅力です。
登場人物たちのセリフがいちいち軽やかで、緊迫した状況でもクスッと笑わせてくれる。
そのおかげで、張り詰めた展開でも最後まで肩の力を抜いて読めてしまいます。
本当に、独特の言い回しが素敵なんです。
わたしはそれを勝手に「伊坂節」とよんでいます。
一度この伊坂節にハマってしまうと、なかなか抜け出せません。
独特な世界観と重い内容の物語を、軽やかで温かみのある一冊へと仕上げてしまう伊坂節こそが、『ゴールデンスランバー』最大の魅力です。

伊坂幸太郎さん沼は深いですね……抜け出せない!
さいごに
記事を書くにあたり改めて読み直しました。
「いやあ、それにしても面白いっ!」というのが率直な感想です。
読み始めて数ページで首相暗殺。
スタートダッシュが過ぎるだろう!と、笑ってしまいそうでしたね。
そのままの勢いで青柳雅春の逃走劇がはじまって、ストーリーを知っているはずなのにワクワクしながら読めました。
なにより私は、本作の最後が好きなんです。
今まで読んだ小説の中で、個人的にはトップクラスのラストだと思っています。
物語自体がハッピーエンドかバッドエンドかではなく、とにかく終わり方がエモい!
文庫で六百八十ページという長編小説であり物語も濃厚。どれだけ読みやすくても、読み終えるには一定の疲労を伴います。
そんな疲労は何処へやら。
こんなエモいラスト書きやがって……罪な人だよ伊坂さん。
ただ、物語には怖さもあります。
物語の舞台である仙台は、街中にセキュリティーポッドとよばれる装置が設置されていて、携帯電話の通話記録すら筒抜けの監視社会。
誰がどこで何をしているか、一瞬でわかってしまいます。これが青柳雅春を苦しめたことは間違いありません。
本作が出版された当時(2007年)では、それが異常なことのように書かれていますが、今の私たちの生活はそれが当たり前ですよね。
スマートフォンの普及とSNSの台頭。
なんてことのない出来事もあっという間に無責任に拡散されていく。
セキュリティーポッドが人に置き換わっただけで、監視も拡散も当たり前に存在している。
読んでいて一番怖いと感じたのはそこで、本作で書かれている世界が「今」なんですよね。
フィクションなのに、ノンフィクションのように感じて怖かったですね。
だからこそ「今」読むべき作品だと感じました。
伊坂幸太郎さん不朽の名作『ゴールデンスランバー』
読み応え十分でありながら、普段あまり本を読まない人でも読みやすい一冊です。
ぜひ一度手に取り、手に汗握る体験をいかがでしょうか。
今日はここまで。
それでは、佐世保の隅っこからウバでした。
皆様の今日が幸せな一日でありますように。
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