「いつもとは違う小説が読みたい」
読書をしていて、そんなことを思う時がありませんか?
とくに読書を始めたばかりのころは、同じジャンルの本を選びがちなんですよね。
そんなときは、いつもは選ばないようなジャンルの本を手に取ることをおすすめします。
恋愛小説が好きな人はミステリーを選んでみたり。
サスペンスが好きな人は、恋愛小説に手を出してみたり。
そもそも小説ではなく、エッセイを読んでみるのもいいかもしれません。
それならいっそ、ジャンル不明な作品を選んでみてはいかがでしょうか?
伊坂幸太郎さん『グラスホッパー』
ミステリーなのか、サスペンスなのか。はたまたコメディーか。
オフビート要素満載の型破りな一冊!
今回は、そんな一冊を紹介していきます。
基本情報
タイトル:グラスホッパー
著者:伊坂幸太郎
出版社:角川書店/文庫版:KADOKAWA
発行年:2004年/文庫版:2007年
ジャンル:ミステリー/サスペンス(オフビート要素あり)
あらすじ
殺された妻の復讐を誓う、元教師の鈴木は、その相手が車に轢かれる瞬間を目撃する。
これは、事故に見せかけて殺しを実行する殺し屋、「押し屋」の仕業だった。
復讐の機会を奪われた鈴木は、正体を探るために「押し屋」を追う。
時を同じく、自殺専門の殺し屋「鯨」、ナイフ使いの殺し屋「蝉」も「押し屋」を追い始める。
それぞれの思惑が交差しながら加速していく物語の中で、鈴木がたどり着く結末とは──。
この作品の、ここが面白い!
個性豊かな登場人物たち
本作には様々な殺し屋をはじめ、個性豊かなキャラクターが多数登場します。
その中から、主要人物をピックアップして紹介していきます。
鈴木
本作の主人公。最愛の妻をひき逃げで殺された元教師。
犯人(寺原長男)に復讐するため、素性を隠して「フロントライン」に入社。
──見た目も真面目でお人好し。少し抜けているけど憎めない。
そんな人物です。
押し屋
標的の背中を押して道路や線路に飛び出させ、事故や自殺に見せかけて殺人を行う殺し屋。
裏社会では有名人だが、その素性は誰も知らない。
作品冒頭で、寺原長男を殺した犯人と思われる。
──押し屋というネーミングセンスが光りますね。殺害方法も、武器を使わずシンプル。
ですが、よく考えれば巻き込まれた側はたまったものではないですね。
鯨
自殺専門の殺し屋。大柄な体格で陰鬱な目をしている。
対面した相手が、なぜか死にたくなるという、催眠術のような能力を使う。
今まで殺してきた人の幻覚や幻聴が聞こえ、つねに暗い空気を纏っている。
──まず、自殺専門の殺し屋ってなに?しかも超能力者ときた。
間違いなく、作中随一の異質なキャラクター。
蝉
ナイフを巧みに扱う殺し屋。細身で猫みたいな青年。
相手を年齢や性別で差別しないため、他の殺し屋が嫌がるような殺しを請け負うことが多い。
──私の推しです。考えさせられるセリフを言ったりして好きですね。
どこか軽率な部分はあるのですが、それがそのまま蝉の魅力です。
槿(あさがお)
寺原長男の殺害現場の近くにいた男。鈴木に「押し屋」と疑われる。
妻とふたりの息子がいる。
本来、槿は「むくげ」と読む。
すみれ・健太郎・幸次郎
槿の家族。次男の幸次郎は昆虫シールを集めている。
──この三人と槿の会話は、読んでいて心地いいです。
複数の殺し屋が登場する本作においての癒し。
その他の登場人物
寺原:「フロントライン」の社長。裏社会では名の知れた人物。
寺原長男:寺原の長男。本作で名は語られず。鈴木の妻を殺した犯人。
岩西:殺し屋の仲介人。蝉の上司。
比与子:フロントラインの幹部で、鈴木の上司。
など、個性豊かなキャラクターばかりが登場します。
さらに、『オーデュボンの祈り』を読んだことがある人ならニヤリとする登場人物も。
作品の枠を飛び越えてキャラクターが登場するのも、伊坂幸太郎作品の魅力です。
テンポの良いストーリー展開
本作は鈴木・鯨・蝉、三人の視点で物語が進んでいきます。
時系列は同じでも、視点が変わるだけでストーリーに温度差が出ているところも本作の魅力のひとつ。
何の接点のない三人の物語が、「押し屋」を中心に交わりあっていく様は、読者を物語に釘付けにします。
三人の視点を行ったり来たりしながら物語は進んでいきますが、ひとつひとつは短く区切られています。
そのため、長編小説に慣れていない人でも読みやすい作品となっています。

最後までドキドキしながら読み進めることができる作品です。
シリアスになり過ぎない伊坂節
本作に限らずですが、伊坂幸太郎さんの作品は「重くて軽い」ところが魅力的。
とてもシリアスな話なのに、そこにいるキャラクターたちの会話はユーモアたっぷりだったりします。
本作でいえば、蝉と岩西との掛け合いなんかは、ユーモラスで読んでいて気持ちがいいです。
複数の殺し屋が登場し、殺しの一部始終も細かく書かれていて、少しグロテスクな表現もあります。
しかし、そこにユーモアが巧妙に混ざっているお陰で、不快に感じることなく読めます。
シリアスなのに軽妙。
読者を飽きさせない文章は、さすが伊坂節の一言です。

生死について考えさせられるシーンもあって、どこか哲学的なところも本作の魅力です。
さいごに
本作『グラスホッパー』は、伊坂幸太郎さんの殺し屋シリーズの第一作目となります。
この後、『マリアビートル』→『AX』→『777 トリプルセブン』と続きます。
とはいえ、すべて独立した作品ですので、どの作品から読んでも楽しめるようになっています。
ミステリーでサスペンスで、どこかコメディーも感じられる。
それでいて、死についても考えさせられるジャンル不明な名作『グラスホッパー』
いちど、手に取られてはいかがでしょうか。
伊坂幸太郎作品を読む入口としてもおすすめです!
今日はここまで。
それでは、佐世保の隅っこからウバでした。
皆様の今日が幸せな一日でありますように。
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