ウバといいます。
読書の楽しさを広めたくて、記事を書いています。
私が読んで面白いと思った本だけを紹介しています。
今回紹介する一冊は、こちら!
小川洋子さん『博士の愛した数式』
記憶が八十分しかもたない元数学者の博士と、家政婦の私、その息子のルート(√)が心を通わせていく物語。
第一回本屋大賞にも選ばれた、優しくて心温まる一冊になっています。
それではさっそく紹介していきます!
基本情報
タイトル:博士の愛した数式
著者:小川洋子
出版社:新潮社/新潮文庫
発行年:2003年/2005年
ジャンル:ヒューマンドラマ
あらすじ
家政婦の「私」が紹介組合から派遣された先は、記憶が八十分しか持たない元数学者の「博士」の家だった。
数学を愛し、それ以外にはまったく興味を示さない博士に、私は苦戦しながらも家事をこなしていく。
私の帰りを独りで待つ息子の存在を知った博士は、今度からは息子も一緒に来るように伝える。
私に連れられ家に来た息子の頭を撫でた博士は、彼に「ルート」と名付けた。
その日から、三人の日々は温かく、優しさに満ちたものになっていく──。
博士の愛した数式の魅力
本作の魅力を、いくつかの視点から紹介していきます。
登場人物
本作は登場人物が多くありません。名前もありません。
ですが、ひとりひとりがとても丁寧に描かれていて、とても愛着が湧いてきます。
主人公の「私」は、あけぼの家政婦紹介組合に所属する家政婦。一人息子がいるシングルマザー。
数学にしか興味を示さない博士に初めは困惑するのですが、博士の優しさやその数学への情熱に触れるうちに、博士に尊敬や親しみを抱くようになります。
これといった特徴もなく、ごく普通の女性として描かれています。
そのおかげでとても感情移入しやすく、物語に没入できるようになっています。
一人息子の「ルート」は野球が好きな少年。頭が√のように平らだったことから、博士にルートと呼ばれるようになります。
博士の愛情を受け、それに答えるように博士に愛情を注ぎ、成長していくさまが描かれています。
本作を温かい物語にしてくれるのは「ルート」の存在のおかげと言っても過言ではありません。
数少ない登場人物の中で圧倒的な存在感を放つのが、元数学者の「博士」
交通事故の後遺症で、記憶が八十分しかもたない彼は、着ている背広のいたるところにメモをクリップで挟んでいます。
人付き合いが苦手で、何を話して良いか分からなくなったとき、言葉のかわりに数字を持ち出す癖があります。
特技は文章や単語を瞬時に逆さまから読むこと(『今日の給食はチキンカツ』をつかんきちはくよしうゆきのうよき)と、誰よりも早く一番星を見つけること。
数学に関してとにかく天才で、驚くほど数学を愛しています。
彼との交流を通して、「私」と「ルート」も成長していきます。
三人の他に、博士の義姉(博士の兄の妻)である未亡人も登場します。
あけぼの家政婦紹介組合に、「博士」の世話を依頼した人物です。
少し気難しそうな人です。
登場人物が少ないからこそ、その誰もが際立って魅力的に描かれています。
少ないからこそ覚えやすく、読みやすくなっていることが、本作の魅力の一つではないでしょうか。

登場人物が多いと、途中で誰がダレかわからなくなりますよね。
記憶が八十分しかもたないという設定
「私の記憶は八十分しかもたない」
博士の背広に挟んであるメモのひとつ。
「私」は毎日「博士」と、初めましてから始まります。
しかし「はじめまして」とあいさつするのではなく、「君の靴のサイズはいくつかね」からはじまるところが素晴らしいんです。
その他にも電話番号や郵便番号、自転車の登録ナンバーなど、とにかく数字にまつわる話からふたりの一日は始まります。
答えの数字を聞いて、それがどんなに素晴らしい数字なのか、その数字の持つ意味を説明する博士が愛おしいです。
「私」と「博士」の持つある数字の間に、友愛数が存在するというシーンは、ただ美しいの一言。
特殊な設定で描かれる本作ですが、八十分しかもたないからこそ、今この瞬間を大事にすることの大切さを感じることができる作品になっています。
美しい物語を支える数字たち
本作、なんといってもストーリーが美しい!
とても簡単にいえば、家政婦の親子が博士と心を通わせていくだけのストーリーです。
その描写はどれも温かく、とくに「ルート」の登場からはいっそう温かい物語へとなっていきます。
そして。
そんな温かい物語を、美しい物語へと昇華させる数字たち。
素数に友愛数。完全数からフェルマーの最終定理まで、様々な数字や数式が登場。
誰かを愛するように、博士は数字を愛しています。
その描写が美しく、読み進めるほどに博士を好きになってしまいます。
「私」と「ルート」そして「博士」
三人が日々を通して友愛を深めていき、互いを愛し、数字を愛していく景色を、ずっとそばで見ているような感覚になれます。
温かい物語と、それを美しく彩る数字たち。
本作の一番の魅力は、物語そのものです。

気づけば心がポッカポカで、物語に没入している自分がいますよ。
さいごに
この記事を書くにあたり、改めて読み返してきました。
本作を薦めたい気持ちが強すぎて、この美しさをどう伝えればいいのか悩みました。
私の文章力も相まって、ものすごく散らかった記事になってしまった……。
最初から最後まで、作品に対する愛情だけで書き進めました。
読み終わって一番最初に浮かんだ感想は「なんて温かく美しい物語なんだ」
それに尽きます。
博士の、数字やルートに対する愛情の深さ。
私の、二人に対する柔らかい愛情と、数字に対する真摯さ。
未亡人との関係。
優しいラスト。
どこをとっても温かくて美しい物語です。
それでいて、とても読みやすい作品でもあります。
八十分しか記憶が持たないという特殊な設定ではありますが、内容はとてもシンプルで、どんどん読み進めることができます。
様々な数式が登場するため、そこは少しむずかしく感じるかもしれません。
しかしページ数も少なく、普段あまり読書をしない人にも読みやすい一冊だと思いました。
温かいストーリーを、様々な数式が美しく彩る一冊。
小川洋子さん『博士の愛した数式』
ぜひ一度、手に取られてはいかがでしょうか。
今日はここまで。
それでは、佐世保の隅っこからウバでした。
皆様の今日が幸せな一日でありますように。



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