職場から逃げ出したいなと思う時がある。
そんなときはイヤホンを耳に突っ込むのだ。
安くで買ったワイヤレスイヤホンをBluetoothでスマートフォンと繋ぎ、音楽を聴く。
職場での安寧は、耳を塞いで読書をすることで手に入れることが出来る。
いつもは、いわゆるJポップを聴くのだが、たまには違った音楽も悪くないとJAZZをチョイスしてみた。
JAZZがどういった音楽なのかすら知らないが、流れてくる音楽は読書にピッタリで心地よい。
まあ、その音がどんな楽器の奏でる音なのかも判別つかず、わかったのはピアノくらいだったけれど……。
JAZZを聴きながら読んでいたのは、燃え殻さんのエッセイ集『この味もまたいつか恋しくなる』
ひとつひとつのエピソードが素敵すぎて、毎日少しずつ丁寧に読ませてもらっている。
二十代前半のころ、ピアノの生演奏を聴きながら食事ができるレストランで女性と食事をしたことがある。
その時演奏されていた音楽がJAZZだったのかどうかは知らないが、心地のいい音楽だったことは覚えている。
食事内容まで覚えているあたり、デートの経験自体が少ないことがわかる。
若い男なんて生き物は、異性とお近づきになることしか考えていないもので、私とて例外ではなかった。
ただ、目の前の女性にカッコつけることだけを考えていたと思う。
世間知らずで大人の常識など知らない私は、響きがカッコイイという理由だけで「エスプレッソ」を注文した。
食前とか食後ではなく、食事と一緒に運ばれてきたエスプレッソ。
はじめて見るそれは、おちょこほどの小さなカップに一口で飲み干せそうな量の黒い液体でしかなく、第一印象は……
「たったこれだけで〇百円もするの!?」
それを口にするほどダサくもなく、無知を認められなれないほどにはダサかった私は、わかった風な態度でエスプレッソを一気に飲み干した。
ただ苦かった。不愉快な苦みが口腔内に広がるだけで、美味しいとは程遠い味だった。
その後の食事は美味しかったのだろうか。
思い出すことは出来ないが、あの「エスプレッソ」の苦みだけは覚えている──。
相変わらず耳に突っ込んだワイヤレスイヤホンからはJAZZが流れている。
百円で買ったペットボトルのコーヒーをグビグビ飲みながら、若き日の高級なエスプレッソの味を思い出す。
今ではコーヒーが大好きなのだが、いまだに味の良し悪しはわからない。
ワイヤレスイヤホンを外して仕事に戻る。
人は、味や音楽をきっかけに過去を思い出すときがある。
それが良い思い出ばかりではないのかもしれないが、それに浸るのも悪くないと思った。
帰宅後、そんなデートもあったねと妻に伝えたが、まるで覚えていなかったから笑える。
音楽や味を頼りに思い出に浸ることが出来ても、その思い出を共有できているとは限らないのだろう。
いや、本当に妻との思い出だよな?過去の私よ……。
今日はここまで。
それでは、佐世保の隅っこからウバでした。
皆様の今日が幸せな一日でありますように。
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