普段あまり読書をしない方に本を紹介するとき、一番最初に言われがちなのが「ページ数が少ない本を薦める」ということです。
とにかく読み終えることができる短編を薦める。
はたして、それだけでいいのか。
一番大切なのは、魅力的な小説であることではないでしょうか。
物語が面白かったら、ページ数に関係なくおすすめできるはず。
そんな魅力的な小説が短編だったら……最高ですね。
というわけで。
今回紹介する一冊は──
伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』
六つの物語からなる、それぞれの物語が緻密な計算によってつながった連作短編集。
全作を通して描かれる出会いの物語。
そのすべてがユニークでいて、あたたかい。
ひとつめの物語である『アイネクライネ』を読んでしまったら、次の物語を読まずにはいられない。
あまり読書をしない、とくに大人にこそ読んでほしい。
それでは紹介していきます。
「出会いって、こんなに面白いのか」と思える一冊です。
基本情報
タイトル:アイネクライネナハトムジーク
著者:伊坂幸太郎
出版社:幻冬舎/幻冬舎文庫
発行年:2014年/2017年
ジャンル:エンターテインメント小説
あらすじ
アイネクライネ──
マーケットリサーチ会社に勤める佐藤は、アンケート調査のため街頭に立っていた。
いまどき街頭アンケートをしているのは、重なった不運でデータの入ったハードディスクとバックアップテープが破損したためだ。
そこで出会ったひとりの女性。その手にはマジックで「シャンプー」と書かれていて……。
ライトヘビー──
美容師の美奈子は、担当している客の板橋香澄から、弟に電話番号を教えていいか聞かれる。
遠慮したはずなのに、その夜に弟から電話がかかってくる。
その日から、ふたりは電話だけの繋がりを続けていくが……。
ドクメンタ──
妻と娘に出ていかれた藤間は、五年ぶりに運転免許の更新に来ていた。
十年前の免許更新の日に初めて会った女性とは、五年前の更新日にも会った。
はたして、今年も会えるのだろうか……。
ルックスライク──
高校生の久留米和人は、同級生の小田美緒に相談され、一緒に駐輪シール横取り犯を探すことになる。
ファミレス店員の笹塚朱美は、ある出来事をきっかけに邦彦と付き合うことになるが……。
メイクアップ──
化粧品会社で働く窪田結衣は、高校時代にいじめられいてた経験がある。
新商品のプロモーションについて、複数の広告会社が名乗りを上げていた。
その内ひとつの広告会社の社員に、窪田をいじめてた小久保亜希がいて……。
ナハトムジーク──
観覧席に座った美奈子は、スタジオの中央で縮こまっている夫、小野学を眺めていた。
日本人初のヘビー級チャンピオンになった19年前の映像が流れる中、美奈子は高校時代の友人である織田由美、の夫のことを思い出していた……。
それぞれの物語が織りなす出会いの物語が、複雑に、それでいて軽やかに繋がっていく。
アイネクライネナハトムジークの魅力
本作の魅力を一言で表すなら、ズバリ『エモい』ではないだろうか。
伊坂節全開で描かれる本作は、登場人物すべてが魅力的で、どこを取ってもあたたかい。
短編集とは言っていますが、一作目の『アイネクライネ』を読んで、そこで読むのをやめる人はいないと思います。
短編集のようで、じつは長編小説でした!と言われても納得できるほど、すべての物語が緻密に繋がっています。
そして。
本作には名言が多いんです。
その中でも、私が実生活で大切にしている名言をひとつ。
自分が正しい、と思いはじめてきたら、自分を心配しろ、って
これは『ルックスライク』に出てくる台詞なのですが、ずっと大切にしている言葉です。
まさしくその通りと思える言葉ですし、その後に──
相手の間違いを正す時こそ言葉を選べ
と続くのです。
もう……エモいっ!
ただエモいだけではなく、しっかりと心に残るような名言も多く出てきます。
この作品をネタバレなしで紹介するのは、本当に困難なんです。
それほどに小さな伏線が無数に散りばめられていて、どこを取って紹介したらいいかわかりません。
しかもそのすべてを見事に回収して終わる作者の手腕たるや……脱帽。
魅力的な登場人物、多くの名言、緻密に絡まるストーリー。
そのどこを取っても感じることができる『エモさ』こそ、本作の魅力ではないでしょうか。

魅力をどれか「ひとつ」と決めることができませんでしたっ!
さいごに
この記事を書くにあたり、しっかりと読み返してきました。
はじめて読んだのは随分と遠い昔なのに、鮮明に台詞を覚えていてびっくりしました。
それほどに、私の心に残る作品です。
一作品目の『アイネクライネ』でガッツリ心を掴まれて、気づけば最後まで読んでしまっていました。
とくに『ルックスライク』が大好きで、これだけでも味わってほしいっ!と思います。
もちろん全作に甲乙つけがたく、結局はぜんぶ楽しんで欲しいと思います!
なにより読みやすい作品です。伏線回収に触れましたが、難しい部分は一ミリもありません。
シンプルな物語でありながら、奥が深い。
読み進めたい気持ちと、読み終えたくない気持ちで複雑になりました。
生きていくうえで大切にしている名言もあれば、クスッと笑わせてもらえるキャラクターもいて、本当に多くの人に読んで欲しいと思う一冊。
伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』
ぜひ一度、手に取られてはいかがでしょうか。
今日はここまで。
それでは、佐世保の隅っこからウバでした。
皆様の今日が幸せな一日でありますように。


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